森林をはじめとする自然環境と、都市をはじめとする人間社会と、両者をつなぐための多様なアプローチを探究しています。フィールドワーク・デジタル技術・アート表現などの多彩な方法論を通して、リアルな直接体験とバーチャルな間接体験の両面から人々の自然認識の特徴を探るとともに、環境学習やワークショップ等のプログラム開発など実践的な研究も行っています。
自然認識の計測と評価
私たち人間は、森林をはじめとする自然をどのように認識しているのでしょうか。それは、その人が生きている時代背景や社会経済システムの影響を受けて変わっていきますし、一方で個人的な経験や価値観によっても大きく左右されます。さらに、何かしらの働きかけ(介入)や仕掛けによっても変化することがあるでしょう。
このような自然認識の特徴を様々な観点やアプローチによって捉えることは、森と人の関係を実践的に紡ぎ直していくうえで、その土台となる知見です。当研究室では、心理学的な印象評価や工学的な行動計測など様々な手法を融合させて、同じ場所でも人によって異なる自然認識の特徴や変化を捉えていきます。さらに、その知見を活かして、環境学習やワークショップ等のプログラム提案に至る場合もあります。

森林景観の長期記録
森林の景観は、短期間のうちに大きく変わることもあれば、長大な時間をかけてじんわりと移ろいゆくこともあります。それらを目の当たりにせずしては森の真の姿は見えませんし、持続可能な社会づくりのための森林との繋がり方も適切に考えることは難しくなるでしょう。とはいえ、現代社会とくに都市に生きる私たちにとっては、直接に森林景観の変化を見届けることは難しいため、森にカメラやマイクを置いて景観変化を記録することに意義があります。
当研究室は、100年を超える後世の人々にも森の変化を伝えるため、1997年に開始された「サイバーフォレスト」というプロジェクトを主導し、未来に向けた森林景観の継続記録に挑戦しています。各地の森林において試行錯誤を積み重ねながら画像と音声の記録を続ける実証研究を通して、森林景観の長期記録に関する方法論を蓄積しています。成果はポータルサイトCF4EEにて公開し、教育現場での活用も促しています。
参考:未知なる自然との邂逅

悠久の移ろいを見届ける
森林景観を淡々と配信して記録し続けるだけでは、その大部分は変化の乏しいコンテンツです。関連する直接体験や専門的な知識がないと、それを実感の伴った意味あるものとして捉えることは難しくなります。森林景観における悠久の移ろいを多くの人に見届けてもらうためには、画像や音声のアーカイブから適切な取捨選択や編集を行うとともに、それを適切なメッセージとともに伝達すること(インタープリテーション)が求められます。
当研究室では、このプロセスを教材開発として位置づけ、主に環境教育の視座からその方法論を検討しています。リアルな自然体験とデジタルな仮想体験の両面からのアプローチを検討しつつ、それぞれのメリットを相互補完的に融合させた統合的な学習プログラム開発を進めてるとともに、従来の体験的学習を問い直すメッセージを発信し続けています。

森を感性で捉える
たとえカメラやマイクで森林景観を24時間365日ずっと記録し続けることができたとしても、それで森林のすべての変化を捉えられるわけではありません。むしろ、それによって従来は全く見えていなかったような、未知なる自然の姿に遭遇するプロセスになるとすらも考えられます。つまり、技術によって見えるものが増えることの価値は、まだ見えない部分への思いを馳せて想像を豊かに膨らませる、創造的な思考と活動を促す点にあるとも考えられるのです。
当研究室では、このような創造的な観点から、科学的・論理的な方法だけでなく、音楽や絵画、アニメ、文芸などの各種芸術を媒介とした感性的な自然の捉え方についても、森と人の現代的な関係を築く方法論として位置づけ、そのあり方を探究しています。これは、単に「繋ぐ」という表現では言い尽くせない、まだ誰も知らない新たな森と人との関係のあり方を「紡ぎ直す」ための象徴的な営みだと考えていす。
参考:社交から「森交」へ
